国内政治家としては最大となる71万5000人のフォロワー数を誇る橋下徹・大阪市長(42)のツイッター。大阪維新の会の選挙公約の説明のみならず、有名人との論争やストレートな物言いも、読み物として面白く、記者も連日チェックしている。文化部記者として注目するのはやはり文化政策。橋下市長は大阪フィルハーモニー交響楽団と文楽協会への補助金カット方針を明らかにし、その説明をしばしばつぶやいている。それを全否定するつもりもないし、公金を預かる身としてもっともな指摘もある。ただ「二度と見ない」と言った文楽を、ぜひもう一度だけ見てほしい。地元文化を生かさないなんて、もったいない。そんなおせっかいな気持ちから、日頃文楽を取材する記者が、橋下語録に対しつぶやいてみた。(飯塚友子)
「僕は僕の感覚で、『今のままの公演だったら二度と見に来ない』と言った。それの何が悪い? 客が公演をどう評するか、客に自由があるのが芸事の公演だ。僕は今の仕組みのままでは文楽は絶対に根付かないし、振興しないと思った。とにかく仕組みが悪い」=4月17日 橋下氏が府知事時代の平成21年、初めて文楽を見た後の発言を批判した記事への反論。
(記者:いい舞台もあれば、悪い舞台もあって、それを観客がどうこう言うのは当然。ただいくらいい舞台でも、理解できなければつまらない。その点、橋下さんがご覧になった「勧進帳」は、初めての演目として適当でなかったかもしれません。これが今年1月、国立文楽劇場で上演していた「義経千本桜」の「四の切」だったら…。見台(いわば太夫の譜面台)がパカッと割れて狐が登場するなど神出鬼没で、早変わりやら宙乗りやら仕掛け満載で、めっちゃ楽しいです。
実は記者も大学時代、初めて文楽を見て(「絵本太功記」だった)爆睡しました。ただ授業で文楽を選択してしまったため、こらえて見続けるうち「これは楽しい」と思える演目とも出合えました。今や記事まで書いていますが、その程度です。舞台や演目には相性があり、一度だけで判断するのは惜しいです。
そして問題視する「仕組み」。太夫、三味線、人形遣いを合わせた技芸員81人が所属する文楽協会(職員12人)は、橋下さんが「文楽協会は文化の名をかたった行政と外郭(天下り)団体の構造」(1月の府市統合本部会合での発言)と批判した通り、府市から職員を複数受け入れています。職員数も歌舞伎俳優が所属する日本俳優協会より多い。組織スリム化と自助努力の必要性はご指摘通りと思います。ただ実は文楽、東京の国立劇場公演では22年度実績で8割の入りと、人気が高い。地元では厳しい状況ですが、振興してないとはいい難いです)
「僕は文化はしっかりと根付かして行きたいが特定団体を守る気はない」
「なぜクラッシク(注:原文のまま、以下同)文化を根付かせることが、大阪フィルハーモニーだけへの補助金なのか? 文化と特定団体を混同しているところに日本の文化行政の間違いがある。年間1億円の助成というのは、賞金に換算すればとてつもない額だ。それを当り前のように貰うことに慣れることは非常に危険だ」=いずれも4月17日
(記者:確かに大阪フィルは65年の歴史がありますが、日本に数あるオーケストラのうちの1つです。ただ文楽は現在、良くも悪くも世界で唯一無二の存在で、現状では文楽協会という特定団体を支援しないと、300年続いた上方文化、文楽そのものが廃れます。
日本文学研究者、ドナルド・キーン氏(89)は著作「能・文楽・歌舞伎」の中で「文楽は脚本に多くの文学上の傑作が書かれた、世界で唯一の人形芝居」と記しています。「国性爺合戦」「女殺油地獄」など人形浄瑠璃に多くの名作を残した近松門左衛門らをさしての発言ですね)
「僕の政治哲学は、『チャンスは与える。あとは努力でモノにして欲しい。競争の土俵に上がれない事情のある人はサポートする』だ。クラッシク音楽に税の助成をするにしても、大フィルに固定化する必要はない」
「あの歴史的大横綱貴乃花親方の必死の営業。公演者は自分は守られるもの、保護されるもの、お金を受けて当然の立場と思った瞬間、もうその公演はダメだ。勘三郎さんの歌舞伎、たかじんさんのコンサート、さんまさんの先日のNGKの公演はお客を如何に楽しませるかということの一点に尽きている」
「文楽は大切な伝統文化だ。しかしなぜお客が来ないのか、徹底的な原因究明と自助努力が必要。客が二度と見に来ないと言って、客に矛先を向ける体質から改めなければならない。まずは演者が公務員化してしまっている仕組みを何としなければならないだろう。難題だ」=いずれも4月17日
(記者:要は自助努力、文楽協会や国立文楽劇場、国立劇場のプロデュース力と宣伝力を促しているわけですね。一般論として東京・渋谷のパルコ劇場など、集客力のある劇場の核になるのはいいプロデューサーです。8月上演予定の「三谷文楽(三谷幸喜氏作・演出の文楽新作)」も同劇場の企画。いかに観客が見たい演目を提示し、人間国宝だけに頼らない配役をするかが、彼らの腕の見せ所です。
優秀なプロデューサーを外から招き、競争力をつける外科手術もあっていいと思いますが、いい人材を集めるにはハッキリ言ってお金がかかります。ただ技芸員にプロデュース力を求めるのは、俳優にプロデュース力を求めるのと同じで、一般的ではありません。スーパー歌舞伎を生み出した市川猿之助さん(72)のような「演じ手」にとどまらず「作り手」でもある希有な才能の持ち主もいますが、例外です。
また、芸事の世界も色々あって、話芸や歌は基本的に1人でも芸が成立します。相撲も2人で勝負できます。一方、文楽や歌舞伎、バレエやオペラは、演じ手だけでは成立せず、大道具や小道具、衣装、音響、床山、鬘師ら熟練した職人と力を合わせ、音楽や照明とも一体となって創り上げる総合芸術です。手間もお金も時間もかかります。だから英国でも「ロイヤルオペラ」「ロイヤルバレエ」などと王室が関わり、パリ・オペラ座のバレエダンサーも公務員です。
日本の伝統芸能である能や歌舞伎、文楽に国が援助をするのは当然と思います。ただこれらの中で、文楽だけは大阪のものです。言葉も上方です。大阪のアイデンティティーだからこそ、地元自治体である府や市も援助してきたわけです。
日本でも歌舞伎は松竹と国立劇場が上演していますが、民間企業である松竹主催公演の入場料は、一等で1万5000円前後と高価です。一方、文楽は一等でも5800円です。これも公的なお金が入っているからです。
橋下さんご指摘の通り、中村勘三郎さん(56)が素晴らしい歌舞伎の舞台を見せているのは事実。ただ忘れてはならないのは、勘三郎さんは平成中村座やコクーン歌舞伎で新たな歌舞伎を創り出しているだけではなく、「夏祭浪花鑑」など人形浄瑠璃から歌舞伎化した義太夫狂言にも懸命に取り組んでいるということです。
歌舞伎の名作の多くは「仮名手本忠臣蔵」「義経千本桜」「菅原伝授手習鑑」など、人形浄瑠璃が歌舞伎になった作品が多く、歌舞伎の“親”のような存在です。いい歌舞伎俳優は坂田藤十郎さん(80)にせよ、片岡仁左衛門さん(68)にせよ、よく義太夫を勉強されています。文楽が廃れれば、歌舞伎の舞台の質にも影響します。“子”は面白いが、それを生んだ“親”はつまらん、というのは短絡的に過ぎます。
歌舞伎を「面白い」と思う感覚がおありなら、文楽の魅力も分かるはずです。橋下さんがおっしゃるように「一部のインテリ」に独占させるのはもったいない。騙されたと思ってもう一度だけ、演目を選んだ上で文楽をご覧になりませんか。その上で、市として地元文化をどうするか、考えるのも遅くはないです)
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(転載終了)
by nihonhanihon
これはどう見ても記者側に問題…